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ホリエモンWITH 「ゼロ」「嫌われる勇気」 堀江貴文×岸見一郎×古賀史健 鼎談【後編】

ホリエモンもほれた閉塞した社会を切り開くアドラーの教え

アドラー心理学の核心を凝縮した『嫌われる勇気』(岸見一郎、古賀史健著、ダイヤモンド社)。フロイトやユングと比べると日本では知名度の低かった状況を覆して37万部の大ベストセラーとなり、空前の“アドラーブーム”を巻き起こしています。そんなアドラーの思想を体現しているのが、ホリエモンこと堀江貴文氏です。堀江氏の著書『ゼロ』(ダイヤモンド社)は、『嫌われる勇気』の実践編だと捉えることもできます。鼎談の後編は、堀江氏が幼少の頃から抱いていたあるコンプレックスにまで話が及び、アドラーの思想をさらに深掘りする内容になりました。(構成:宮崎智之、写真:田口沙織)

誰かの期待を満たすために生きてはならない

古賀史健(以下、古賀) 僕が制作チームの一員として『ゼロ』を作っているとき思ったのが、堀江さんは経営者というより、思想家なんだなということです。人間心理だったり、世界に対する真理だったりするようなものを、不器用だけど一つ一つ自分の手で掴みながら前に進んでいるという印象を受けました。

堀江貴文(以下、堀江) すべてのことに正面から向かって行くタイプだから、そう見えたのかもしれません。僕は幼稚園の頃から、周りに対して気を遣って言いたいことも言わないでストレスを溜めるより、言いたいことを言ってぶつかって、その後に仲良くなればいいという思いで生きてきました。そんな生き方をしていたから、批判され続けてきたわけですけど。

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岸見一郎(以下、岸見) 仲良くなれるってわかっていればぶつかりますが、普通はそうは思えないです。

堀江 僕の場合、なぜかはじめからそう思ってしまった。自分は過ぎたことを引きずらないから、他人に対しても正直に接したほうが結果として関係がよくなると思ったんです。たとえば、『嫌われる勇気』には、「承認欲求を否定する」という話が出てきますよね。

古賀 「誰かの期待を満たすために生きるのは、他人の人生を生きることである」ということですね。

堀江 はい。当然、僕にも承認欲求はあるんですけど、子どもの頃から承認されない人生を歩んできたので、途中から「承認されることはない」という前提で生きることにした経緯があります。『ゼロ』にも詳しく書きましたが、僕の親はテストで100点を取っても褒めてくれませんでした。それが当たり前だと考えていたんですね。だから次第に両親に褒められなくても、自分が満足してればそれでいいと思うようになりました。だからこそ、「他人も、自分(僕)の期待を満たすために生きてはいないだろう」ということにも気付くことができた。

古賀 それは経営をしているときに気がついたんですか?

堀江 いやいや、それも小学校くらいの頃だったと思いますよ。なんでこいつら自分の思った通りに動いてくれないんだろうと。それに対する対処法があるわけではなく、もんもんとしていたけど、とりあえずは諦めることにしたんです。自分だって自分の満足のためだけに生きているのに、他人が僕の期待を満たすために動くはずがないだろうと。

岸見 それがわかっていると大きいですよね。

堀江 僕は大学生のとき、先輩に「人の気持ちを少しは考えろ!」と言われ、「人の気持ちなんかわかるはずがない!」と反論したことがあります。結局はそういうことだと思うんですよね。他人の期待や自らの過去に縛られて動けなくなっている人が世の中にはたくさんいます。しかし、そういったことは考えても仕方ないことなんです。自分ではどうにもならないんだから、自分は今の自分の人生を全力で生きるしかない。『嫌われる勇気』を読んではっきりとそのことを再認識しました。

ホリエモンが長年抱えていた、あるコンプレックス

堀江 一方で、なかなか過去のとらわれから抜け出せなかったのが恋愛です。『嫌われる勇気』では、「お前の顔を気にしているのはお前だけ」というエピソードが出てきますよね。それはわかっているんだけど、自意識を引きずってなかなかそうは思えなかった(笑)。

岸見 「愛のタスク」は、人生において一番難しい課題なんですよ。

堀江 そう、一番厄介なんですよね。というのも、小学校のときに喧嘩して、「お前みたいな不細工と俺は違うんだ」と言われたことがありました。たった一言だったのにもかかわらず、それ以来、「そうか俺は不細工なのか」と20年間くらい思い続けていたんです。

岸見 それは、心理学的には「属性付与」と呼びます。「お前は○○だ」と断定された側が、それを事実上の命令とらえてしまい、ずっと縛られてしまうんです。

古賀 いわゆるレッテル貼りですよね。

岸見 そうです。子どもが母親に、「お母さんなんて大嫌い」と言ったとします。でも、母親が「お母さんは、あなたが本当は私のことを好きだと知っているよ」と返したとする。すると、言われた子どもは、「お母さんのこと好きになりなさい」と命令されたような気がしてしまう。そういうものに、人間はずっと縛られてしまう習性があります。

堀江 属性付与された属性を自ら取り消すにはどうすればいいんですか?

岸見 「その属性は一つの考え方、見方でしかない」というふうに思うしかないです。

堀江 そうですよね。僕もそう思ったんですよ。あれは単なる喧嘩したときの捨て台詞だったのかもしれない、本気でそう思ってなかったのかもしれない。そう思うことでなんとか脱却できました。でも、自分は不細工という思い込みは強烈なものでした。女の子に、「そんなモテない感じじゃないよ」と言われても信用できませんでしたから(笑)。

岸見 そう言ってくれる人がいても、「例外的な存在」だと思ってしまうんですよね。

堀江 そうそう。

岸見 どんな人だって、モテない証拠を探せばいくらでも見つかりますから。

堀江 まさに僕がやっていたことですよね。自分に対しても他人に対しても、悪いところを見つけるなんて簡単です。

岸見 子育てに関するカウンセリングをしていても、子どもの短所や、欠点、問題行動などを挙げ続ける母親がとても多い。止めなかったら1時間くらい話す人もいます。カウンセリングではその内容を聞くのはあまり重要ではなく、母親が子どものよくないところばかり見ているという一つの事実さえわかればいい。

堀江 なるほど。

岸見 それを変えていくのがカウンセリングの目的なのですが、「子どもの長所を教えてください」と聞いても、ほとんどの人がすぐに言葉に詰まってしまいます。

堀江 とても面白いエピソードですね。だから僕はポジティブリストを出して、人の長所を見つける生き方をしたいと思っているんです。刑務所に入ってその思いは、より強くなりましたね。刑務所に入っている人なんて、悪いところを見つけようと思えば簡単なんです。でも、いいところもたくさんあって、そこをちゃんと伸ばしてあげれば、犯罪をするような人にはならなかったんじゃないかという思いを抱くようになりました。

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岸見 悪い部分ではなく、良い部分にスポットライトを当てるべきだということですね。さらに言えば、悪い部分も含めて自分のことを認めることが必要です。そのためには前編でも言いましたが、できもしないのにできると暗示をかけるような「自己肯定」ではなく、できないことも含めて自分を受容する「自己受容」が大切。そして、自分が他者に貢献できていると思えたとき、「自分は価値がある存在なんだ」とはじめて思える。

堀江 『嫌われる勇気』は刑務所で読まれるといいかもしれませんね。

 

自分のことを不細工だと思っていた本当の理由

岸見 でも難しいのは、ある目的を達成するために、あえて自分のいいところを見つけようとしない人もいるということなんです。モテないと思っている限りは女の子に声を掛けなくてもいいですよね。でも、自分にはいいところがあると思っているなら、女の子に声を掛けなければいけない。そうすると断られるかもしれないですよ。傷つくリスクがある。そういうリスクを冒さないために自分はモテないと思い込むわけです。

堀江 なるほど。それは耳が痛い指摘です。まさに、僕がそうでした。

岸見 アドラー心理学では、そうした「原因論」を否定しています。あくまで原因は現在の目的を達成するために、後から作ってしまっているに過ぎない。つまり、堀江さんの場合、「自分は不細工だから」という原因を意図的に作って、女の子に振られるリスクを回避していた可能性がある。

堀江 はい。女の子に対して、積極的にならない理由を求めていたという側面はありましたので、すごくよくわかります。だから、恋愛の問題で最後までとらわれていたのでしょう。やっぱりアドラー心理学は面白いですよね。面白いですけど、とらわれている人からすれば、受け入れ難い思想でもあります。でも、これだけベストセラーになれば、拒否反応を示すタイプの人の手にも届く可能性が出てきますよね。

岸見 そうなってほしいですね。そういう方の役に少しでも立てればうれしいです。

古賀 両方の著書に関わらせていただいた経験で言うと、『嫌われる勇気』が理論編、『ゼロ』が実践編という分け方ができると思いました。

堀江 そうそう。僕も講演会でそういう話をしているんですよ。本の帯コピーを変えて売り出しますか?(笑)

古賀 いいですね(笑)。でも、本当にセットで読んでほしくて。『嫌われる勇気』だけで足りない人は、『ゼロ』を読めば堀江さんの人生を通してリアルに納得できるだろうし、『ゼロ』だけを読んで「堀江さんだからできたんじゃないの?」と思った人は、『嫌われる勇気』を読むと理屈がわかり、自分自身でも実践できる生き方だとわかってくる。

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堀江 『嫌われる勇気』は僕の読者に本当に評判がいいです。

古賀 実際に執筆しながら、堀江さんのことを思い浮かべたことが何度もありました。

堀江 そうなんですか。光栄ですね。この二つの書籍が深いところで結びついていて、しかも両方とも古賀さんが関わっているということに、運命を感じますよね。

古賀 『ゼロ』の制作を進めながら、「堀江さんって現代のアドラーじゃん」って、スタッフ同士で話していたので、偶然というより、必然的な運命だったのかもしれません。

堀江 『嫌われる勇気』がこの時期の、この日本でヒットしたのにも運命を感じます。

岸見 四半世紀ほど研究していますが、アドラーがこんなに注目されたのは初めてです。

古賀 これまでアドラーが日本で受け入れられなかったのは、その思想が厳しすぎたせいだと思います。フロイトが提唱するトラウマという考え方は、「今こんな酷い状態なのは過去のトラウマのせいで、あなたは悪くない」と慰めてくれるけど、アドラーはそれを否定しますからね。アドラーにとってトラウマは、現在の目的を果たすためのものに過ぎない。つまり、「過去の原因のせいにして、今の自分を許そう」という目的をアドラーは暴いてしまいます。厳しい現実を突きつけられると、どうしても拒絶したくなってしまう。

岸見 しかし「過去のせいにしていても駄目だ」ということに、だんだんと多くの人が気づき始めたのかもしれません。原因論だと一歩も前に進むことができない。そんな局面に社会が差し掛かっているからこそ、今やっとアドラーが受け入れられるようになったのでしょう。

堀江 いずれにしても、自信を持ってお勧めできる本なので、もっともっと読まれてほしいです。僕の『ゼロ』をセットで100万部を目指しましょう(笑)!

古賀 いいですね(笑)。ほんとうに今日は、ありがとうございました。

岸見 私も、堀江さんとお話しできて楽しかったです。

堀江 ありがとうございました。

 

岸見一郎(きしみ・いちろう)
哲学者。1956年京都生まれ、京都在住。京都大学大学院文学研究科博士課程満期退学。専門の哲学(西洋古代哲学、特にプラトン哲学)と並行して、1989年からアドラー心理学を研究。精力的にアドラー心理学や古代哲学の執筆・講演活動、そして精神科医院などで多くの「青年」のカウンセリングを行う。日本アドラー心理学会認定カウンセラー・顧問。訳書にアルフレッド・アドラーの『個人心理学講義』『人はなぜ神経症になるのか』、著書に『アドラー心理学入門』など多数。古賀史健氏との共著『嫌われる勇気』では原案を担当。

古賀史健(こが・ふみたけ)
ライター/編集者。1973年福岡生まれ。1998年出版社勤務を経てフリーに。これまでに80冊以上の書籍で構成・ライティングを担当し、数多くのベストセラーを手掛ける。臨場感とリズム感あふれるインタビュー原稿にも定評があり、インタビュー集『16歳の教科書』シリーズは累計70万部を突破。20代の終わりに『アドラー心理学入門』(岸見一郎著)に大きな感銘を受け、10年越しで『嫌われる勇気』の企画を実現。単著に『20歳の自分に受けさせたい文章講義』がある。