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記憶に残し、共感させる……。「simpleshow」吉田哲が語る 解説動画の未来とは?前編2/2

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解説動画に特化して10年。このノウハウは簡単に盗めない

堀江 ところで、このsimpleshowは、最初、どうやって考えついたんですか?

吉田 創業メンバーは3人いるんですけど、彼らがドイツのシュトゥットガルトにある『国立メディア大学』に通っていた頃、企業向けのプレゼンテーションがあったんです。その時にパワーポイントではない別のプレゼンツールを考えようということで作ったのが始まりですね。

堀江 学生の頃ですか。

吉田 そうですね。それで、そのプレゼンがとてもわかりやすくて、企業の方々のウケが良かったので、2008年にビジネスにしたんです。ただ、創業メンバーは、本当はプロのミュージシャンになりたかったそうですけど……。

堀江 それが、なぜ?

吉田 彼らは、地元ではそこそこ売れていたらしいんです。そのため「メジャーデビューしないか」って言ってくる怪しい投資家がたくさんいたんです。当時のドイツは音楽バブルで、「とりあえず、誰でもいいから捕まえておけ」みたいな投資家がたくさんいたようで、そうした人たちに創業メンバーは辟易していたらしいんですよ。

堀江 へー。

吉田 それで、堀江さんもオープニングパーティの時に会ったと思うんですが、クリストフという投資家がある日、3人に声をかけてきたそうです。

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堀江 はいはいはい。あのヒッピーみたいな見た目の……(笑)。

吉田 はい(笑)。それで、「また、声をかけてきたやつがいるよ」ってイヤイヤ会いに行ったら、なぜか意気投合しちゃったと……。

堀江 他の投資家と何が違ってたんですか?

吉田 なんか、話がおもしろかったと(笑)。

堀江 そういうことなの(笑)。

吉田 それで、クリストフから「音楽でメシを食いたいなら、まずはお金が必要だから、お前ら、どうやったら金儲けできるか真剣に考えろ」って言われて、それでsimpleshowのビジネスモデルを作ったんです。

堀江 あれ、でもすでにsimpleshowは作ってあったんでしょ?

吉田 はい。でも、最初はそれで起業しようとは思ってなくて、クリストフのその言葉がきっかけだったらしいです。だから、simpleshowと一緒に『マリアレコーズ』っていう音楽レーベルも立ち上げたんですよ。でも、音楽活動のほうはあまり成功しなかった。彼らは今でもCDを出して音楽活動を続けているんですけど、それはsimpleshowが成功したおかげでできることなんです。

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堀江 ちなみに僕もCD出してますけど。『ゼロ〜裸の俺たち〜』っていう……。

吉田 ああ、知ってます。simpleshowはBGMにジャズを使っているんですけど、これは彼らが作曲したものです。

堀江 自分たちで作曲をしてるんですか?

吉田 はい。彼ら自身はロックをやってるんですけど、いろいろ試した結果、ジャズが一番耳障りがなくてメッセージに集中できるという結論に行き着いたそうです。そして、メッセージ後半部分の課題が解決されそうな部分では、心理的に乗ってきてほしいので、ジャズも盛り上がりるような仕掛けになっています。

堀江 ふーん。

吉田 そういった音楽へのこだわりもあるんですけど、simpleshowではイラストを動かす手の動きもすごく重要なんです。人間は大事なことは手を使ってやるので、視線は手に集中しやすい。だから手を動かす人は見た目のきれいさより、イラストを止めたり離したりする動きの上手い人、運動神経のいい人にお願いしています。普通のハンドモデルじゃダメなんですね。

堀江 なるほど、どちらかというと体育会系ですね。

吉田 そうですね。見た目は簡単そうに作っているんですけど、これと同じことをちゃんとやろうとするとものすごく難しい。盗もうと思ってもなかなか盗みきれませんよ。そんな要素がたくさんあるから、simpleshowは面白いんです。ちなみに、そういう手の動きまで細かく書いてある教材があって、社員は全員eラーニングで勉強して、テストも受けているんです。それに、週一回の電話会議で本社の日本担当コーチから制作のクオリティチェックが入ります。

堀江 大変だ(笑)。

吉田 任せっぱなしじゃなくて、細かい部分でのクオリティコントロールの仕方が独特なんですね。とにかく、ひとつひとつの動きや音など、すべてに彼らの研究成果が込められていますから。

堀江 それは、やっぱりメディア大学に通っていた影響があるんでしょうね。

吉田 そうですね。さらに彼らは、効果的な音や動きによってメッセージを記憶してもらうだけじゃなくて、どうすれば共感してもらえるかということも考えています。“記憶”という脳科学的な面と、“共感”という心理学的な面の2つの面からアプローチしているのが非常にユニークだと思います。

堀江 なるほど。

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吉田 あとsimpleshowのイラストって、日本人の僕らから見ると特徴的なんですけど、ドイツ人からすると没個性のイラストらしいんです。それにももちろん意味があって、simpleshowはあくまでメッセージが主役なので、“イラストがメッセージより前に出てはいけない”“メッセージを阻害してはいけない”っていうコンセプトがあるんです。

堀江 すごいな。解説動画に特化して、いろんなところを研ぎすましてるんですね。

吉田 そうなんです。

堀江 解説動画の会社は、けっこうたくさんありますよね。もっと安く作ってくれるところもあるんじゃないですか?

吉田 今の日本だと、映像制作の会社が「最近、解説動画が流行ってるから、ちょっと僕らもやってみました」っていうパターンがほとんどだと思います。でも、彼らは“解説動画”を作る専門の会社じゃありませんから。

堀江 そういう意味では、他社はまだ競合できるところまで追いついていないと。

吉田 そうですね。欧米にもsimpleshowの真似をしている会社はいくつもあるんですけど、彼らが学生時代から10年かけて積み上げきたものを超えるほどの会社はまだありませんね。

堀江 ところで、simpleshowって、何で切り貼りした絵を使ってるんですか? 今はマンガだって、みんなデジタルでしょ。切り貼りって、デジタル時代にはそぐわないような気がするんですけど。

吉田 実は手の動きだけを撮影したデータも持っているので、撮影を一切せずにデジタルで作ることもできるんです。でも、全部デジタルでやると時間がかかります。手でイラストを描いて、切り貼りして撮影した方が早いんですよ。

堀江 あ、そういうことなんですか。

吉田 それと、今デジタルデバイスがすごく普及していて、フルデジタルなものが多いじゃないですか。そんな中で、あえて切り貼りした紙で、紙のふちがちょっと見えたりすると、それが人の記憶にひっかかるんです。

堀江 あれは、わざとやっているんですか。

吉田 そうです。わざと紙のふちの影が出るように撮影しています。そういう方法を彼らは「オーガニック」って呼んでますけど、そういう部分が記憶に刺激を与えて、より覚えやすくなるんです。ところが全部デジタルで作ってしまうと、そのオーガニックさを出すのが逆に難しくなってしまう。

堀江 へー。フルデジタルの環境をサードパーティに提供することは考えていないんですか?

吉田 本社の方では考えています。今、ウィキペディアの国民総幸福量のページにsimpleshowの動画が入っているんですけど、将来的にはそれをもっと広げたいと思っています。

堀江 ウィキペディアの説明をsimpleshowでやって、各国版の字幕がでるような流れですね。

吉田 そうですね。そうなると、いちいち撮影していられないので、デジタルですべて作れる体制を整えている最中です。ただ、そのコストをどうやって調達するかが今の課題です。

 

後編は10/9アップ

吉田哲(Tetsu Yoshida)
株式会社simpleshow Japan 代表取締役 http://simpleshow.com/jp/
1973年生まれ。東京都立西高等学校卒、慶應義塾大学文学部および同大学メディアコミュニケーション研究所卒。テレビ東京、電通を経て、2014年simpleshow Japan 初代代表取締役就任。

 

Photograph=柚木大介 Text/Edit=村上隆保