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「気泡とプラズマで、がん細胞を死滅させる」世界が注目する芝浦工大 山西陽子の研究とは?前編1/2

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山西陽子(Yoko Yamanishi)
芝浦工業大学工学部機械工学科 准教授
2003年ロンドン大学インペリアルカレッジ機械工学科熱流体専攻Ph.Dコース終了。東北大学大学院工学研究科バイオロボティクス専攻 助教、名古屋大学大学院工学研究科マイクロ・ナノシステム工学専攻 准教授を経て、2013年より芝浦工業大学工学部にて准教授となり、山西研究室を開設する。科学技術振興機構の研究推進事業さきがけの兼任研究員。

針なし注射器は、電気メスの研究から生まれた

堀江貴文(以下、堀江) 山西さんは痛みのない“針なし注射器”を開発されたんですよね。

山西陽子(以下、山西) はい。でも最初から注射を作ろうとしたのではなくて、「電気メスを小さくしたい」ということでスタートしたんです。外科用の電気メスは、バチバチと放電して高温で熱して皮膚を吹き飛ばすんですけれども、その「電気メスのマイクロナノサイズ(10億分の1m)のものが作れないか」ということが、そもそもの課題でした。そして、そのプロジェクトで派生的にできたもののひとつが“針なし注射器”です。これが鶏のササミを電気メスで切っているところなんですけれども……(写真を見せる)。

堀江 ああ……

山西 焦げるんですよね、やっぱり。実際に電気メスで手術している人もこんな感じだと思います。

堀江 切り口が粗いですね。

山西 粗いです。これを高精度にするというのは、かなり難しいんですよ。アメリカのスタンフォード大学が、ミクロンサイズの焦げ目程度で豚の網膜を切ることはできているんですけれども、それでもやはりダメージがある。ですから、私たちは「熱ダメージのない細胞用の電気メス」を目標にしていたんです。

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堀江 ええ。

山西 最初は、単純に電気メスを小さくしていったんですけれども、電極が摩擦でなくなったり、タンパク質が付着してしまったり、電気分解で変な気泡が発生してしまったり、いろいろな失敗を繰り返しました。そんな中で、絶縁層をつけた電極で対向電極に向かって液中放電すると、その時に発生する気泡の飛び方がある挙動を示したんです。

堀江 はい。

山西 それで、液中でいろいろな放電実験を行なったところ、ある状況下では、電極部と対向電極部の間にある空隙に気泡が必ずトラップされて、振動によって真っ直ぐ出ていくことがわかりました。その状態を23万fps(1秒間に23万コマの画像)のハイスピード写真でみると、気泡のサイズが1個1個そろっているのがよくわかります(写真を見せる)。大きさは先端口径が10μm(マイクロメートル・100万分の1m)程度だったら、その半分の5μmくらいの大きさで高速連射されています。スピードはだいたい2、3m/sec(秒速2、3m)。液中ではかなりの速度です。

堀江 そうですね。

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山西 さらに、気泡が出ている時の周りの流れを可視化してみると、先端に空隙がある状態だと、液中の周りの流体をものすごく引き連れているんです。つまり、ものすごいスピードでまっすぐ気泡が出る噴流のような状態で、そこにすごいエネルギーが発生しているわけです。それで、「この高速発射する気泡の間に対象物を置くと切ることができるんじゃないか」と考えて、やってみたら切れた。ですから理論が先にあってできたわけではないんですね。

堀江 やってみたら切れたと。

山西 そうなんです。ハイスピードカメラで実際どうなっているのか見たら、対象物に向かって気泡が高速発射されると発射された部分に高い圧力が生じて、気泡が尖った形に変形していたんです。そして、気泡が割れる瞬間にまっすぐで鋭い気泡のかけらみたいになって細胞に刺さってえぐれていくような様子が写っていました。

堀江 へー。

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