WITH

ホリエモンWITH 医者として、技術者として。「治す」ことから「治す技術」の開発へ。千葉大教授・五十嵐辰男 前編

DSC_8995-2

水がもたらす新しい発見。常識を破る「水中手術」の新しいアプローチ方法とは。

堀江貴文(以下、堀江) 今日はよろしくお願いします。

五十嵐辰男(以下、五十嵐)よろしくお願いします。

堀江 開発中の水中手術についてお聞きしたいんですけど。

五十嵐 はい。主に内視鏡を使った手術で、水中手術はその名の通り手術時、お腹の中に生理食塩水を満たして行う手術です。従来の手術はドライな環境で行い、出血するとその血を吸い取っているわけですが、それをお腹の中に水*1をいっぱいに入れて、洗いながらやっていこうということです。閉鎖回路になっていて、血液などが混ざった水はポンプで循環させる仕組みです。

堀江 循環させる時に自己血赤血球だけを取り出して再輸血するというのはできないんですか?

五十嵐 そこのハードルが高いんです。分離はほんとに小さい一滴二滴というレベルなら達成されているようですが*2。手術という短時間の中で分離するまでにはまだ至っていません。

堀江 そうなんですね。

五十嵐 あと水の中でやるわけですから、血が出ると煙突の煙みたいに血が上に上がるので、どこから出血したかが分かり易いんです。手術は出血の制御が重要なので、出血に強い手術方法だと言えます。それと従来の内視鏡手術ではスペースを確保する為に二酸化炭素ガスで圧力を加えて手術するんですね。ガスを入れると当然圧力がかかるので静脈の出血も抑えられるわけなんですけど、ただガスだと臓器の表面が乾いてしまい炎症反応をおこしやすいんですね。水であれば水圧で出血を抑える事ができるし、当然乾燥もしない。

堀江 二酸化炭素ガスだと癒着したりとかしやすいってことですか。

五十嵐 そうです。動物実験での論文はあります。水中手術だとそれが少ないのではと考えているわけです。

堀江 確かに、手術した後に癒着するケースって多いですよね。腸とか。

五十嵐 例えば、目もずっと開けてると痛いですよね。粘膜は乾燥に弱いんです。

堀江 それは確かに当たり前の話ですよね。これまでなぜそういうふうなシステムがなかったんですか?

五十嵐 おそらく昔から、それこそギリシャ時代とかそのぐらいから、お腹切ってやるっていう手術はドライでやる事しかできなくて、その後技術の進歩で内視鏡というものが生まれて、お腹を切る程度が減って乾燥具合が改善されてきているように見えます。

堀江 開腹手術から内視鏡中心になりつつあって、内視鏡手術であればこういうことが可能であるからってことですか。

五十嵐 内視鏡で言うと、例えば関節、それから膀胱とか尿管とか、そういうのは従来もみんな水を入れてやってるんです。水の灌流によって手術しているわけです。

堀江 そういえばそういうのをやりましたね。腎臓結石。

五十嵐 そうです。それで石を壊す。灌流液で洗いながら壊してますね。

DSC_9068

堀江 僕は内視鏡ではなくて、ショックウェーブでやったんですけど。その時、石がちょっとでかすぎたので、尿管カテーテルを入れたんですよ。

五十嵐 そういう時は必ず水を使いますね。

堀江 水入れて、結構でかい内視鏡入れてやってるのをずっと見てました。水が確かに満たされていました。

五十嵐 そういう狭い空間であれば水で洗う手術や治療系が発達してますけど、お腹とか広い空間ではまだで、開腹か、もしくはガスを入れてやってます。

堀江 何で水を思いつかなかったのですかね。

五十嵐 多分誰かはやったと思うんですよね。でも失敗したんだと思います。その原因はおそらく、水の中に少し血をたらすと、すぐに真っ赤になっちゃうんですね。拡散して。水が真っ赤に濁って見えなくなってしまうから、これは使えないという結論になったんじゃないかと。

堀江 これは真っ赤にならないんですか。

五十嵐 最初は真っ赤になって失敗の連続でした。

堀江 へぇ。

五十嵐 いろいろやり方を考えて、要は早く水を入れて流そうと思うから拡散して失敗したんですね。逆の発想でもっとゆっくりゆっくり入れてみたらどうだろうかという事でやってみるとお腹の中で水がわりと静かに一定方向に流れてうまくいきました。

堀江 具体的にはでっかいパイプで流すんですか?

DSC_9074

五十嵐 お腹を5cmくらい切開すると3cm程の開いた穴ができますので、同じくらいの穴の空いたお盆みたいなものをその上に置くだけです。そのお盆を一度介す事で、水を注いだ時の乱流であるとか、空気の泡とか、そういうのが全てキャンセルされるわけです。そして底に開いた穴からは、割と静かな水がお腹の中に落ち込むので、お腹の一番奥に水を回収するドレーンを入れておくとうまく流れるわけです。

堀江 ぶっちゃけローテクというか、なるほどって感じですね。

五十嵐 どちらかというとローテクですね。

堀江 電気メスはこういう状況下でも使えるんですか?

五十嵐 食塩水ですのでモノポーラ(単極)というものは使えないのですが、バイポーラ(双極)だと電気メスで焼く事ができます。

堀江 バイポーラ型の電気メスだったらOKっていうことですね。

五十嵐 はい。あと水の中だと超音波が使えるんですね。超音波は空気だと伝わりにくいので。超音波である程度向こう側の病変がもし見えれば、こちらからマイクロ波を当てて、病変だけを焼いて切除するという事も可能になるわけです。

堀江 なるほど頭いい。マイクロ波レーザーみたいな?

五十嵐 レーザーを使うにしてもガイドが必要なわけで、そういった時に超音波の画像で適切な場所を検出しておいてそれをガイドにすればいいわけです。今回のやり方だと内視鏡と超音波がほぼ同軸で同時に見えるんですね。従来ですと、内視鏡ではある程度対象から距離を置かないと見えない。超音波だと逆にプローブを対象に接触させないと見えない。であれば、水を置いてやれば対象と距離を置いても内視鏡と同軸で超音波も見る事ができるんですね。それを今、超音波のチームが頑張ってやっています。

*1:等張液のことを「水」と呼んでいます。
*2:千葉大学工学部共生応用化学科、関実研究室でおこなっている研究です。

 

次のページへ続きます。