遺伝子組み換え作業は、根気の勝負
堀江 クモ糸シルクの研究はどれくらい前から始めているんですか?
桑名 研究自体は約10年前になりますが、難しかったのは研究よりも製品化ですね。
堀江 どのへんが難しかったんですか?
桑名 やはり“実験用”に遺伝子を組み換えたカイコと、“実用”の遺伝子組み換えカイコでは、カイコの性質が若干異なることです。
堀江 どういうふうに異なるんですか?
桑名 遺伝子組み換えに適した実験用のカイコは小さいんです。そのため食べるエサの量が少ないのでコストがかからないんです。また、世代交代が早い。
堀江 具体的にどれくらいコストが違うんですか?
小島桂(以下、小島) 3倍くらいは違います。それから、実験用のカイコは世代交代が早いので、年間に4、5回は実験ができる。しかし実用のカイコだと2回くらいです。さらに、実験用のカイコは遺伝子組み換えのために作られた品種なので、成功率がものすごく高いんです。たとえば、実験用のカイコは組み換え実験を10回やったら10回成功しますが、実用のカイコは10回やって1回成功するかどうかです。
堀江 そんなに違うんですか。
小島 はい。ですので、当時は実用のカイコで遺伝子組み換え実験をするという研究機関はほとんどなかったんです。
堀江 遺伝子の組み換えがしやすい実験用のカイコというのは、具体的にどういったところに操作が加わっているんですか?
桑名 たとえば、実験用のカイコというのは目が白いんです。しかし、実用のカイコは目が黒い。
小島 遺伝子の組み換えができたかどうかという確認のひとつに目が赤くなるというのがあるんです。
堀江 組み換えで目が赤くなる。
桑名 実際には、このシャーレーの中に卵が200個くらい入っているんですけど、その卵をひとつずつ顕微鏡で見て、目が赤いのがあるかどうか確認するんです。
小島 その時に実験用のカイコはもともと目が白なので、赤いのを探すのは楽なんですけど、実用のカイコは目が黒なので、赤く光っているかどうかを確認するのにものすごく手間がかかる。真っ暗な部屋の中でひとり黙々と顕微鏡で見ながら探すんです(笑)。
堀江 目は光っているんですか? 蛍光体なんですか?
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桑名芳彦(Yoshihiko Kuwana)
農業生物資源研究所遺伝子組換え研究センター
新機能素材研究開発ユニット主任研究員。
小島桂(Katsura Kojima)
農業生物資源研究所遺伝子組換え研究センター
新機能素材研究開発ユニット主任研究員。
瀬筒秀樹(Hideki Sezutsu)
農業生物資源研究所遺伝子組換え研究センター
遺伝子組換えカイコ研究開発ユニット ユニット長。
Photograph=柚木大介 Text/Edit=村上隆保