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「人は五感に加え『地磁気』感覚も身につけられる」 東京大学教授・池谷裕二が語る 「脳」と「感覚」の最先端 前編1/2

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池谷裕二(Yuji Ikegaya)

東京大学・薬学部・教授、薬学博士
1970年8月16日生まれ。静岡県出身。東京大学・薬学部にて博士号取得。米国コロンビア大学客員研究員、東京大学・薬学部・准教授などを経て、現職に。著書に『ココロの盲点』(朝日出版社)など多数。

女性には波長の違う2種類の赤色を見分けられる人がいる

堀江貴文(以下、堀江) 池谷さんは人間の感覚についての研究をしているんですよね。いきなりですが、「先天性相貌失認(失顔症)」というのは、どういうものなんでしょうか?

池谷裕二(以下、池谷) 生まれながらに顔がうまく認識できないということです。そういう人が人口の2〜3%くらいいるんです。

堀江 2〜3%もいるんですか。

池谷 一度会ったことがある人と次に会った時で、顔が一致しない症状です。名前や前回話した内容は覚えているけれども、顔だけがわからないんです。顔は、目が2つあって鼻と口がひとつずつあって、全体の感じはだいたい同じですよね。普通の人は、その中から微妙な違いを探し出して識別しているんですけど、相貌失認の人は、脳の中にある“顔を識別する回路”がうまく働かないんです。

堀江 そうなんですか。

池谷 例えば、手だけを見て人を識別することは難しいと思うのですが、でも、10回も20回も見ていると手を見ただけで人を識別できるようになりますよね。それと同じことが相貌失認の人には起こっていると想像していただければいいと思います。

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堀江 じゃあ、みんな同じような顔に見えるわけですか。

池谷 はい。特徴があればわかりやすくなります。例えば、すごく個性的なメガネをかけているとか、薄毛だとか……。

堀江 カッコイイとか美人とかは?

池谷 美形か否かは判別できます。わかるのですけど、美人はみんな同じように美人に見えるのです。だって、「美人」という理想プロトタイプにどれほど似ているかが美人の定義だとすれば、美人の皆さんは大雑把にいえばそっくり同士ですよね。だから覚えにくい。だから余計に相手のプライドを傷つけちゃうんです(笑)。

堀江 ははははは。

池谷 実は、私も脳の研究を始めてから、ようやく自分が相貌失認だとわかったのですよ。

堀江 え、そうだったんですか?

池谷 はい。それまでは、みんなも同じように見えているものと思ってました。例えば、小学校の頃とか4月から新学期がスタートして夏休み直前でも、まだ、顔と名前が一致しないんです。だから「自分は人の顔を覚えるのが遅いんだな」程度に思ってました。でも、脳の研究を始めてから、こういう病気があることを知ったのです。これは遺伝性の病気です。

堀江 じゃあ、親御さんがそうなんですか?

池谷 父親が相貌失認でした。有名人の方も結構いますよね。例えば、ハリウッド俳優のブラッド・ピットとか……。

堀江 2〜3%もいるんですもんね。

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池谷 そうです。クラスにひとりくらいの割合です。

堀江 色盲とか色弱とか、色覚異常の人もけっこういますよね。

池谷 赤色が知覚できない、いわゆる色覚マイノリティはほとんどが男性です。男性の中での割合は、日本では5%。やはりクラスにひとりの割合です。

堀江 男性が多いというのは、Y染色体の関係ですか?

池谷 X染色体のほうです。X染色体に色のセンサー遺伝子があるのですよ。男性の染色体は「YX」で、Xがひとつしかないから、そのひとつがダメだと色覚マイノリティになるのです。でも、女性は「XX」でXがふたつあるから、ひとつがダメでももうひとつが正常ならば大丈夫です。

堀江 X染色体の中にあるんですか。

池谷 さらに興味深いのは、遺伝子によって吸収しやすい波長が違いということです。例えば、同じ赤でもAさんが感じている赤とBさんが感じている赤は違う。だから、女性の場合、X染色体が2つあることで波長の違う赤を感じとることができる。すると青、緑、2つの赤と4色感じることができるわけです。そういう人は、ものすごく色覚に敏感になるということです。

堀江 色がたくさん見える人って、そういうメカニズムだったんですか。

池谷 そうです。男にはわからない世界です(笑)。

堀江 赤色が2つ識別できるって、不思議な世界ですね。

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