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世界初!冬眠の神経回路を同定した 筑波大学・櫻井武教授が語る「冬眠」と「宇宙旅行」と「救急救命」 前編2/2

冬眠は、体温の設定温度を下げるということ

堀江 櫻井先生は、なぜ、冬眠の研究を始めたんですか。

櫻井 冬眠の前には睡眠や覚醒の研究をしていましたが、僕は最初から冬眠や睡眠を目指していたわけではないんです。未知の脳内物質を見つけて、それが何をやっているのかに興味がありました。そして、20年くらい前にたまたま見つけた脳内物質が、覚醒を維持する「オレキシン」という物質だったので、そこから睡眠の研究に入りました。

堀江 そうだったんですね。

櫻井 オレキシンが過剰に出ていると覚醒を維持して、眠れなくなるわけです。すると、逆にオレキシンをブロックすれば不眠症治療につながります。

堀江 なるほど。

櫻井 そして、今回はマウスの脳(視床下部)の一部に存在していて、新規の神経ペプチドを発現する神経細胞群(Q神経)を興奮させると冬眠状態になることがわかりました(2020年6月発表)。

堀江 それはどうしてわかったんですか。

櫻井 Q神経を興奮させると何が起こるかを調べていたんです。するとマウスがまったく動かなくなってしまった。それで、そのマウスを触った学生がマウスの体がすごく冷たいことに気づきました。

堀江 どれくらいで、その状態になるんですか。

櫻井 30分くらいですね。30分で体温はだいたい30度くらいになります。1時間もすると外気温と同じになります。

堀江 すげぇ。

櫻井 機能としては、偶然見つかったというほうが近いんです。その細胞がある場所も、何をしている場所なのかよくわかっていませんでしたから。

堀江 そうなんですね。

櫻井 そして、体温が外気温くらい下がっているのに、シッポだけは温度が上がっていた。これが、わりと重要なんです。マウスのシッポって毛がないんですが、それは放熱器の役割をしているからです。

堀江 はい。

櫻井 シッポの温度が上がるということは、人間でいえば体温がちょっと上がって汗をかいているような状態です。それは、体から熱を逃そうとしているんです。本来は運動をして体温が上がってしまった時に放熱して体温を下げてもとに戻す機能です。しかし、このマウスは本来維持すべき37度よりもはるかに体温が下がっているのに積極的に熱を逃そうとしている。

堀江 そうですね。

櫻井 何が言いたいかというと、このマウスは体温の設定温度を下げているんです。エアコンで室内の設定温度を下げるように体温の設定温度をかなり下げて、そこに持っていこうとしている。野生の場合、外気温が氷点下になることもあるので、そこまで体温が下がってしまうとさすがに死んでしまいます。だから、例えてみればエアコンをオフにするのではなく、設定温度を下げているんです。例えば、リスの場合は外気温が下がっても4度〜6度くらいを保っている。外気温が氷点下になったら熱を作って、その体温を維持しようとしているんです。

堀江 脂肪などのエネルギー源を使って、熱をつくり出しているんですね。

櫻井 だから、麻酔をかけた状態とはまったく違っていて、すごく安全なんですよ。

堀江 それがわかったのは世界初ですか。

櫻井 そうです。そして、遺伝子改変をしてある物質を投与することによってQ神経を興奮させられるマウスを作り、その物質を投与して冬眠状態を誘導すると、だいたい36時間くらいは冬眠状態で居続けます。

堀江 点滴みたいなもので継続的に投与すれば、ずっと冬眠状態でいるわけですよね。

櫻井 そうですね。でも、そうなるとエネルギーがなくなってしまうという問題が出てきます。代謝が下がっていても、まったく食べないわけにはいきません。冬眠しているリスも、冬の間ずっと冬眠しているわけではなくて、10日に1回くらい起きているんです。

堀江 そうなんですか。

櫻井 10日に1回くらい、ちゃんと37度まで戻っているんです。

堀江 よく、宇宙旅行の冬眠っていうと何十年も眠っていて、ハッと目が覚めるみたいなイメージがありますけど、そうじゃないんですね。

櫻井 少なくともリスは、ずっと寝ているのは無理です。

堀江 おしっことかはしないんですか。

櫻井 ほとんどしないです。フンもしない。

堀江 そうか、膀胱にそれだけ貯まらないんだ。

櫻井 マウスの心拍数って、ふだん700前後なんですよ。しかし、冬眠状態だと100台なので、だいたい8分の1になる。すると、代謝がすごく下がるので、排泄をする必要がないんです。

堀江 いやー、なんかすごいですね。

 

後編に続く