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世界初!冬眠の神経回路を同定した 筑波大学・櫻井武教授が語る「冬眠」と「宇宙旅行」と「救急救命」 後編1/2

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人工冬眠技術は、介護施設や家畜の運搬にも利用できる

櫻井 先ほどは救急医療と言いましたけど、僕らもやはり宇宙には興味があって、JAXA(宇宙航空研究開発機構)と一緒に国際宇宙ステーションの日本研究棟「きぼう」で、人工冬眠の研究ができないかと思っているんです。

堀江 宇宙で人工冬眠する場合は、放射線の問題とかもありますよね。

櫻井 でも、これは想像なんですが、冬眠している間は放射線に対する感受性もすごく下がっているはずなんですよ。

堀江 そうなんですか。

櫻井 はい。代謝自体が下がっていますから。それから、放射線のダメージを一番受けるのは分裂している細胞なんですが、冬眠時は細胞の分裂も遅くなっていますから。

堀江 確かに。ということは年も取らない?

櫻井 年を取らないかどうかも検証しようと思っています。

堀江 それは、まだ検証されていないんですか? マウスを長期間冬眠させるとわかりそうなもんですけど。

櫻井 始めてはいますが、対象群がまだ死んでいないので再現性をとったりすると数年はかかってしまう。

堀江 マウスは何歳ぐらいで死ぬんですか。

櫻井 2歳くらいです。

堀江 そのマウスの寿命が1年伸びたら、それは明らかに年をとっていないということになりますよね。そして、人工冬眠で老化の進み方が遅くなるということであれば、宇宙旅行がより身近になりますね。

櫻井 そうですね。ただ、火星くらいの距離ならば、食料や酸素が少なくてすむということが一番役に立つと思います。

堀江 人間への応用って、どういうプロセスで進むんですか。

櫻井 今は遺伝子改変マウスとウイルスベクター(遺伝子を細胞内に運ぶウイルス)を使って実験しているんですが、それと同じことは人間にはできません。でも、Q神経が人にもあるのは確実なので、そこを興奮させる何らかの方法を見つけることになります。ただ、有効そうな方法がわかって治験が始まったとしても、そこから10年以上の時間はかかってしまうでしょうね。

堀江 今だと新型コロナウイルス感染症のワクチンが、すごい早さで作られていますよね。同じように、例えば救命医療ですごく有効だということがわかれば、もっと早くできないんでしょうかね。

櫻井 そうなるとうれしいんですけど。

堀江 でも、雪の中で3週間も冬眠状態になった人がいるということは、何らかの理由でそういうシステムが動かせる人がいるということですよね。

櫻井 そうですね。例えば、息止めで世界記録を出すような人は、20分以上無呼吸です。ああいう時は、たぶん代謝が下がっているはずなんですよ。もしかしたら、人間も何らかの条件が整えば低代謝が起きるのかもしれないんです。

堀江 そういう人たちの体温って測ったことないんですか。

櫻井 ないです。

堀江 じゃあ、体温とか心拍数とかを測るデバイスをつけておけば、どういう状態になっているのかがわかりますよね。

櫻井 そうですね。実は人工冬眠の応用範囲は、救命救急や宇宙旅行だけでなく、他にもいろいろあるんです。介護施設などでは、介護されている方を寝かせるために睡眠薬を投与することがありますが、そういう時に人工冬眠を利用することもできる。

堀江 なるほど。

櫻井 冬眠状態は筋萎縮しないんです。よく、寝たきりになると筋萎縮して歩けなくなることがありますよね。

堀江 はい。

櫻井 でも、冬眠している動物はまったく筋萎縮しないし、骨の量も下がらない。

堀江 なぜですか。

櫻井 それは「筋肉が萎縮してしまう」ということも代謝過程だからです。

堀江 そうか。つまり、普通は運動することによって筋肉量が増えて、筋肉が分解される分とのバランスが取れているけれども、寝たきりの状態だと筋肉は減っていく一方だと。

櫻井 筋萎縮は宇宙旅行でも大問題になると思いますので、それを止められるというのはかなりのメリットだと思います。他にも、食肉用の牛を輸送する時に牛を冬眠状態にしておけば、代謝が進まないとか。

堀江 確かに家畜のマーケットを考えると、ものすごい経済波及効果がありそうですね。生体のまま移動できるのはすごくいいかも。ということは、競走馬の輸送もできますよね。

櫻井 そうですね。

堀江 競走馬って輸送している時にケガをすることが多いんですよ。

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