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「記憶は人為的に書き換えられる」富山大学大学院教授・井ノ口馨が語る 「脳のしくみ」と「記憶」と「自我」後編1/4

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<前編はコチラ>

記憶を移すことは将来的には可能

堀江 僕、さっきからずっと考えていたんですけど、何か別の脳や脳のようなものを作って、それをニューロンで結びつけると記憶はそっちにも溜まるんですか?

井ノ口 記憶を転送させるということですか?

堀江 ええ。例えば、容量が10倍くらいある大きな脳のようなものがあるとするじゃないですが、それを既存の脳とくっつけて、何年か後に脳同士を切り離しても、お互いが自我として生きて行けるような気がするんですけど……。

井ノ口 面白いですね。人間の脳も半分くらい似たようなことをやってますよ。記憶は覚えて6ヶ月から2、3年間くらいまで、脳の中の「海馬」というところに溜められるんです。しかし、その時期を過ぎると記憶は大脳皮質に移ってきます。最初は海馬という非常に小さな容量のところに記憶があるんだけれども、時間とともに10倍以上のキャパのある大脳皮質に移してる。それを自然にやっています。

堀江 脳をふたつつなげて、転送するみたいな実験はやったことないんですか?

井ノ口 マウスみたいな実験動物でも、何十億から何百億っていうものすごい数の神経細胞があるんですよ。だから、技術的に難しくて、まだできないですね。

堀江 脳ってくっつかないんですか?

井ノ口 くっつきますよ、若い脳は。

堀江 どういうふうにくっつくんですか?

井ノ口 例えば、神経細胞同士を切って別の神経細胞にくっつけることはできます。ただ、それだとシナプスがランダムにくっつくから、配線がめちゃくちゃになってしまう。そのため、最初にあった記憶も消えてしまう。

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堀江 配線がグチャグチャになっちゃうんですか。

井ノ口 ええ。ただ将来的には可能でしょうね。だって、海馬から大脳へと、我々の脳の中では同じことをやっているわけですから。

堀江 例えばですよ、2つの脳をくっつけて半年くらい生存させておきます。その後、また元にもどします。もし、片方の脳にすごい恐怖の記憶が入っていた場合、どうなるんですか?

井ノ口 つまり「記憶が移るか」ということですよね?

堀江 そうです。

井ノ口 それは将来的には可能だと思いますよ。移ると思います

堀江 じゃあ、逆に脳を半分にしたら? 自分が2人生まれるんですか?

井ノ口 生まれるんじゃないでしょうか? 2つに分かれるような気がします。脳って、いろいろな情報や機能を局在させているというよりは、たぶん分散しているんです。だから、半分にしても大丈夫だと思います。

堀江 それ、もし脳を半分にされたら、明日から2人の僕がふつうにいるということですよね。怖いなー。

井ノ口 いるでしょうね。ただ、身体まで分けるというのは難しいです。あくまでも脳だけを分けるということです。そして、最初は同じ自我だったのが、経験を積んでいくうちに変わっていくんでしょうね。

次のページに続く。