WITH

重力から解き放たれたいと願う人類 宇宙事業の夢がそこにある。対談その2

前回に引き続き、堀江貴文氏との対談だ。遺伝子から宇宙事業まで興味のあるテーマに際限がない堀江氏のこれからの夢は?

メディアが作ったイメージ

 ――堀江さんが大学時代に設立したオン・ザ・エッヂ社は、2002年、旧ライブドア社から営業権を取得します。そこから、どんどん拡大路線へと進まれました。

堀江 やりたいことを全部やりたかったから、いろんなものに手を出して拡大していきました。アナリストの人たちからは、どうしてコングマリット(複合企業)化するんだとかなり酷評されたものです。もちろん株主の方たちには説明をして認めてもらわなければなりませんが、外野の意見はあまり気にしませんでした。ただ、ライブドアは、ITに関係することしかやらないと決めていたので、やりたかった宇宙事業は僕1人で立ち上げたんです。さらに、その後、2、3年で自分はライブドアから退くつもりでした。

高橋 宇宙事業の方にシフトしようと?

堀江 はい。その間に道筋をつけておこうと思っていた矢先に捕まった。いい感じになりかけていたんですが、最後の最後でダメでしたね。

高橋 あれだけ大勢の社員を束ねるというのはコミュニケーション能力のレベルが高かったのだと思いますが、逆に世間では接しづらい人というイメージがありました。

堀江 変わり者とみられていたようですが(笑)、それは基本的にメディアが作ったイメージです。僕はどちらかというと気分屋なので、「くだらない」と思ってしまうと無愛想な態度をとってしまうんですよね。

高橋 その気持ちわかります。

堀江 こちらに敵意を持っている人にはそういう対応をとってしまっていました。

1DXB3712
高橋氏の研究室にて対談。好きな仕事を続けてきた2人だからわかりあえる双方の興味関心に話は尽きない。(Photo by 澁谷哲之)

やりたいことを全部やりたい

高橋 塀の中にいた期間、何か得たことはありますか。

堀江 時間がたっぷりあったのでとにかく本は山ほど読みました。それと、最初は、今後やりたいことを絞り込んで厳選しようと考えていましたが、やっぱりやりたいことは全部やろうという方針に変え、会いたい人にはどんどん会おうと決めました。

高橋 どんな人に興味がありますか。

堀江 いろいろな方にお会いしていますが、最近だと、東京工業大学で光によって遺伝子の発現を制御する技術が開発されたので、担当教授にその話は聞いてみたいです。

――堀江さんはソーシャルメディアもフル活用されています。

堀江 いまは、ソーシャルメディアを通じて情報の集約化が容易に行われるようになったので、イノベーションがいろんなところで起きやすくなっています。ロケットを例に挙げると、昔はロケットに関わっている人はほとんど見かけませんでしたが、いまはソーシャルメディアを通じてたくさん集めることができるので、ロケットのイノベーションも起きやすい環境にあります。

高橋 ライブドアという事業体を失って、やりたいことがやりづらくなったということはありませんか。

堀江 案件をハンドリングするアシスタントはほしいですが、問題点としたらその程度です。資金については、じつは100億円くらいの投資ファンドを立ち上げているので、まとまった資金が必要なときにはそれでなんとかなります。

 

宇宙事業への夢

――宇宙事業をやろうと思ったのはなぜですか。

堀江 宇宙は、あたりまえに行ける場所にかならずなるからです。いま宇宙が特別な場所のままであるのは、簡単にいえば宇宙に行くためのコストが高すぎるからです。技術的な問題ではありません。宇宙に行く技術は基本的には多くの検証が重ねられたものの集合なんです。つまり“枯れた技術”といえる。ロケットも一点もので、車のように量産できないから高いだけ。

高橋 スペースシャトルが退役してロシアだけになったら、価格競争がなくなって値上がりしたんですよね。

堀江 そのとおりです。ラインを増やして量産すれば価格は下がってもっと受注は増えるはずなのに、そうならない。宇宙事業はどこに問題があるのかわかってきたので、一つひとつ解決すればロケット・ビジネスは可能です。

ロケット
宇宙事業を専門に推進する会社「インタステラテクノロジーズ」の仲間たちと。同社は、堀江氏が設立者であるSNS社の子会社だ。

高橋 ところで、ロケット技術って“枯れた技術”なんですか?

堀江 多数のロケットエンジンを束ねて構成する「クラスターロケット」なんて枯れていますよ。大型のロケットエンジンを新たに開発する場合は、燃焼室の振動などの問題を解決するために莫大な費用と時間が必要ですが、クラスター方式は手持ちの信頼性の高いエンジンを流用して推力を増やす方法ですから、同じエンジンを量産できるし、価格も安くできます。

ところが、国や大学や研究機関が宇宙開発をやると、理想を追いすぎて莫大な費用がかかる。ロケットは、要は宇宙に行けりゃいい。最新技術なんか使わなくても、枯れた技術で安く飛ぶことは可能なんです。

高橋 研究機関が枯れた技術を追っていては論文にならないですからね。

堀江 だから、民間や個人がやらないとダメなんです。

高橋 いまロケットの打ち上げは、民間ではどこがリードしているんですか?

堀江 アメリカのスペースX(正式名称は、スペース・エクスプロレーション・テクノロジーズ)です。アメリカのすごさは、この一社だけではなく、オービダル・サイエンシズというもう一つ会社があること。複数の企業が競いあうからアメリカの宇宙産業は奥深い。

高橋 僕は今年、「キロボ」のプロジェクトでロケットの打ち上げを見に行ったんですが、世界中の人がロケットに熱い視線を投げかける理由がわかるような気がしました。巨額の金と国の威信をかけて、膨大なエネルギーを制御して、それでも人間が宇宙に飛び立ちたいと願う根源的な希望のようなものを感じました。

堀江 僕たちの星は質量が大きくて重力が強いので、星から外に飛び出すのは簡単じゃない。その分、宇宙に飛び出すロケットに対する憧れを抱くんでしょうね。

高橋 重力から逃げ出せないままへばりついている。

堀江 へばりついている心地よさを、不幸にも我々は知ってしまったわけです。知らなきゃよかったけど。

高橋 じつは僕は宇宙自体にはそんなに興味がないんです。ロケットにはとても興味はあるけど、その先の宇宙がどうなっているのか、というようなことについてはあまり知りたいと思わない。理由は、あまりにスケールが大きすぎて、日々の活動がむなしくなるから。

堀江 まあまあ、それはわかります。でも、次から次へと未知の世界が明らかになって、新しいネタが出てくるのはおもしろいと思うんですよね。

高橋 ロケットの場合はひとつの達成点があるじゃないですか。そういうのがはっきりとある方が、僕は好きだな。だから僕は、形のあるロボットというものが好きなのかもしれません。話は尽きませんが、また今度プライベートな機会にこの続きを。本日はありがとうございました。

堀江 こちらこそかわいいロボットを見せていただき、ありがとうございました。

 

main_txt

高橋智隆 ロボットクリエイター
京都大学工学部物理工学科メカトロニクス研究室を卒業し、同大学内の入居ベンチャー第1号となる「ロボ・ガレージ」を創業。以来、ロボットの開発、デザイン、製作を手がける世界的ロボットクリエイターとして活躍。ロボカップ世界大会で  5年連続優勝を達成したり、米TIME誌『Coolest Inventions 2004』に選ばれるなど、数々の受賞歴をもつ。クロイノ、FT、ロピッドをはじめ、パナソニックのエボルタくんの開発者としても知られる。ヒューマンキッズサイエンスロボット教室の監修、国内外での講演、テレビ番組への出演、執筆活動など、幅広い分野で活躍中。現在、株式会社ロボ・ガレージ代表取締役社長。東京大学先端科学技術研究センター特任准教授。大阪電気通信大学メディアコンピュータシステム学科客員教授、福山大学工学部電子ロボット科客員教授などを兼任。1975年大阪生まれ。

週刊『ロビ』 41号 発行:デアゴスティーニ・ジャパン Photograh=澁谷哲之