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「脂肪が作り出す酵素で、 老化に対抗することができる」 米ワシントン大・今井眞一郎教授が語る 「抗老化と長寿」研究の最前線 1/2 後編

<前編はこちら>

抗老化でがんになる確率も著しく遅くなる

今井 実は今、脂肪が分泌するNAMPTへの注目がかなり高まっています。そして、先ほど申し上たように、NAMPTが作っている物質がNMNというものです。このNMNを投与したら老化が遅れるのではないかと思って、マウスに1年間投与しました。すると、人間でいう60代くらいのマウスが40代くらいの状態に保たれることがわかりました。

堀江 すごい。で、そのあとはどうなったんですか?

今井 このプロジェクトは1年間で終了してしまったので、寿命への影響がどうなるかはわかりませんでした。でも、私は寿命が延びるんじゃないかと予想しています。

堀江 そうですか。

今井 不老不死ということはありえません。必ず、死が訪れる。でも、それまでの間、健康な状態は保てるかもしれない。これは私がいつも話していることなんですが、“プロダクティブエイジング”というのが、私の研究のコンセプトであり、目標なんです。年をとっても健康で、今と同じようにアクティブに自分の生活を楽しんだり、社会に貢献し続けることができたら、お年寄りが増えても介護などがあまり必要にならず、高齢化の問題は今考えているよりひどくはならないでしょう。

堀江 そうですね。例えば、がん細胞とかには、どう働くんですか?

今井 私の研究室ではがんを専門には研究していないんですが、サーチュイン機能が失われてがんになる場合と、サーチュイン機能が強まってがんになる場合の2種類があるらしいということがわかってきています。ただ、私たちが非常に興味を持っている現象があります。先ほど脳のSIRT1を強めたマウスで老化が著しく遅れたと言いましたが、実はそのマウスはがんになるのも遅れるんです。

堀江 へー。

今井 研究室で飼っているマウスの多くは、リンパ腫などの血液のがんや肝臓がんなどで死んでいきます。ところが脳のSIRT1を強めたマウスは、がんになるのが著しく遅れました。なぜ遅れたのかはまだわかっていませんが、がんになる時期は確実に遅くなりました。

堀江 NADは加齢とともに減っていくんですか?

今井 はい。その理由はふたつ考えられていて、ひとつは慢性の炎症です。体の中に細菌や他の物質などが入ってくると炎症がおこります。それが治った後も、ある程度軽い炎症状態が続くことがあります。そして、その蓄積が慢性の炎症状態になる。するとNADを合成する酵素の量を下げてしまうんです。

堀江 ふーん。

今井 もうひとつはDNAの損傷じゃないかと言われています。大まかにいうと細胞のダメージですね。細胞の修復には、すごい量のNADを消費するんです。ですから、まとめるとNADの合成の減少と、NADの消費の上昇。

堀江 ダブルでくるんですね。

今井 そうです。

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