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AIロボットでの実験、iPS細胞での網膜移植、 福祉と一体化した医療センター。 理研・高橋政代が語る、眼科治療の今と未来 前編1/2

高橋政代(Masayo Takahashi)
理化学研究所・網膜再生医療研究開発プロジェクト プロジェクトリーダー
1961年生まれ。92年、京都大学院博士過程終了。京都大学医学部助手、京都大学病院探索医療センター助教授などを経て、現職に。神戸市の先端医療振興財団先端医療センター病院眼科部長なども兼務。

iPS細胞を育てるには、匠の技が必要

堀江貴文(以下、堀江) 高橋さんは、いろいろな研究をされていますよね。

高橋政代(以下、高橋) そうなんですけど、iPS細胞(人工多能性細胞)を使った網膜移植のことばかりが取り上げられてしまって……(笑)。私、AIロボットでバイオロジー(生物学)を変えようともしているんですけどね。

堀江 「AIロボットでバイオロジーを変える」って、どういうことですか?

高橋 バイオロジーってムダな実験が多いんですよ。研究がムダなのではなく、実験のムダが多い。なぜかというと、実験のうまい下手もあるし再現性がないことが多いんです。学術雑誌「Nature」なんかでも再現性のないことが問題として取り上げられました。例えば、iPS細胞を培養するのはとても難しい。うまい人がやると培養できるけれども、違う人や他の研究所だと再現できなかったりする。“匠の技”が必要なんです。

堀江 どのへんが難しいんですか? iPS細胞を作るのが大変ということですか?

高橋 作るのも、育てるのも難しいです。例えば、栄養となる液を入れ替えるときに、普通の細胞だとそれほどデリケートに扱わなくてもいいけれども、iPS細胞は液の入れ方で遺伝子が変わったり、細胞が変化したりしてしまうんです。

堀江 なんで、入れ方で遺伝子が変わったりするんですか?

高橋 「シアストレス」といって、液体による刺激です。流れの速さやどこに当てるかなどで変わってしまう。うちでは“iPSソムリエ”と言っているんですが、そう言われる培養のうまい研究者は、iPS細胞の微妙な変化を読み取ることができるんです。

堀江 微妙な変化? 顕微鏡を見ながらですか?

高橋 はい。実体顕微鏡でiPS細胞を見ながら「ハッピーだ」とか「元気がない」とか言ってるんですが、そのハッピーな状態を保つように液をそーっと入れていく。

堀江 それを無造作にやっちゃうと?

高橋 遺伝子がどんどん変わっていって、ヘンなiPS細胞になってしまいます。

堀江 ヘンなiPS細胞になると最終的にはどうなるんですか?

高橋 私たちは網膜を作っていますけれど、網膜ができなくなります。

堀江 分化しなくなる。

高橋 その通りです。分化しなくなるし、分化したとしても遺伝子が少し変わっているとか、遺伝子異常を起こします。

堀江 iPS細胞って、そもそも体細胞から作るんですよね。ここで実験されているiPS細胞は、誰かの体細胞を取ってきて作るんですか?

高橋 うち(理化学研究所・網膜再生医療研究開発プロジェクト)で最初に手術した人は、その人自身の細胞から作りました。今、治療で使っているものは、山中伸弥先生が所長を務める「CiRA」(Center for iPS Cell Research and Application, Kyoto University/京都大学iPS細胞研究所/サイラ)が作ったものです。

堀江 そのiPS細胞は、どんな形でもらえるんですか?

高橋 チューブに入った冷凍のものをもらいます。

堀江 チューブって、どれくらいの大きさの?

高橋 200μℓ(マイクロリットル/1μℓ=0.001ml)くらい入る大きさのチューブです。それを“起こす”って言うんですけど、解凍してうまく育てられるかが、第一の関門です。

堀江 どうやって起こすんですか?

高橋 迅速に溶かして、きちんと心地よい状態にしてあげる。その迅速さや安定性がiPS細胞は難しいんです。そして、増やしたものの一部は網膜を作る培地に移して、ほかのものはストックしておく。

堀江 分化させるための因子は?

高橋 臓器によっていろいろ違うんですけど、体内の環境をミミック(再現)してあげるんです。

堀江 あー。

高橋 だから、眼にするためには、まず脳の真ん中の部分になるような環境にしてあげる。そして眼球になるように整えて、最後に網膜になるように持っていくという感じですね。

 

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